■小論文で問われる3つの力とは?
どの大学でも共通して見ている小論文のポイントは、第一に課題文やテーマを正確に読み取る読解力、第二に自らの結論と理由を論理的に結びつける論理力であり、第三に、具体的な根拠を提示しながら説得力のある主張を行う構成力です。つまり小論文は、才能ではなく方法で決まるといえ、練習を積むことで誰でもその力を向上させることができるのです。
■基本となる小論文の形
小論文においてまず重要なことは、どんな内容の文章を書くか以前に、どういう形で書くということです。その形とは構成のことを意味します。ただやみくもに書き進めても、結局は何が言いたいかあまり伝わらない。そんなことは珍しくありません。ですから、まずは文章の全体像を考えることが、小論文では重要視されるのです。
▶PREP法
小論文の書き方に関し、参考書や学習塾などで最もよく紹介されているのが、P=Point(結論)、R=Reason(理由)、E=Example(例)、P=Point(結論)の順に書くPREP法です。結論のサンドイッチになり主張が明確になる書き方ですが、すべての課題にこのPREP法が相応しいわけではないことに注意が必要です。
問.企業の生産性を高めるための施策を論じなさい。
P:企業の生産性を高めるため、テレワークを恒久的に導入すべきだ。
R:通勤時間の削減は、社員の集中力を大幅に向上させるからだ。
E:実際にA社では、予算達成率が向上したというデータがある。
P:このように、テレワークは企業と従業員双方に利益をもたらすのである。
▶政策提案型
政策提案型は社会問題の解決など、結論が具体的な解決策となる構成です。具体的な解決策とは、制度や法律、もしくは仕組みの構築であったりします。
・災害激甚化に対し、現行の地域防災体制は限界だといわざるを得ない。
・災害時に機能する実効性の高い防災ネットワークの確立が急務だ。
↓
・結論:共助を促す地域防災リーダー制度を創設すべきなのである。
▶問題提起型
問題提起型とは、表面化していない社会の課題や矛盾点を問いの形で提示し、その問いに対する自らの立場を明確にする方法です。一例として、現状ではあまり認知されていないことだけど実は大事なんだよ、という構成になることもあります。結論は具体的なものである場合もあれば、そうではない場合もあります。
問.AIの導入が進む現状に対するあなた自身の意見を論じなさい。
・AIの導入促進には、それ以前に単純労働従事者対策を進めるべきではないか。
・今後人が担うべき役割は、AIが代替しにくい共感性と創造性へシフトすると考えられる。
↓
・結論:非定型業務への適応力育成が、AIと人間の両立には欠かせないのである。
▶まとめ
ここまで述べてきた論文の形、つまり論理的な文章構成の基礎は古代ギリシャの哲学者であるアリストテレスが確立したとされる、「弁論術」や「論理学」に深く根ざしています。アリストテレスは、論証や説得に適した文章構成を体系化したのです。
とりわけ説得においては、状況に応じて変化させることは常であり、それが論文の構成が1つではなく複数ある理由です。大学入試の小論文では、様々な設問の形があります。この設問にはこの形が相応しい、受験生に求められるのはその見極めの力なのです。小論文のPREP法しか知らないという受験生は多くおり、どんな問いに対してもPREP法で書こうとします。それでは、たまたま上手くいくこともありますが、そうならないケースの方が多くなるでしょう。
■小論文における論証の形とは?
論証とは自らの主張や仮説に対して、証拠を付け足していくことで、それが正しいと証明する行為です。その証拠とは実験であったりデータであったりするわけですが、参考資料などを見ることが許されない大学入試において、どうやって証拠を付けてしていけばよいのでしょうか?
もちろん試験会場に明確な証拠などないのですが、それを補うのが論証の方法です。ここでは代表的な論証方法を紹介します。
▶小論文における論証法:帰納法
帰納法とは、具体的な事例を積み上げて一般的な法則とする論証方法です。かみ砕いて言えば、AもそうだしBもそう。だったらCもそうなんじゃない?というやり方です。もちろんこの場合のAやBに相当するのは、1つ1つの個別の事例ではなく、一般的事例がより説得力を持つわけです。この帰納法を用いた論証の例は、以下のようになります。
・先月、愛知県で技能実習生が集団で職場から消え去るという事件が起きた。
・全国の労働基準監督署にも、技能実習生からの相談が相次いでいる。
↓
・結論:日本の技能実習制度には問題が多い。
▶小論文における論証法:演繹法
演繹法(えんえきほう)とは、誰もが認める原理・原則、前提を示し、個別事例をそれにあては、結論を述べるやり方です。つまり、先述の経験を超えた概念というものを用いて論証するわけです。
・人は誰もが平等で、性別や国籍などの属性で差別されてはいけない。
・日本のジェンダーギャップ指数は世界的にも低いままの状況が続いている。
↓
・結論:性差による格差の是正を早急に進めなければならないのである。
▶小論文における論証法:法的三段論法
法的三段論法とは、法に関する議論において、「大前提」と「小前提」から結論を導き出す方法です。法的であるということを除けば、基本的には演繹法と同じと捉えて良いでしょう。
・人の身体を傷害した者は、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
・甲は、乙の顔を殴って、全治2週間の怪我を負わせた。
↓
・結論:甲は、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処せられる。
■小論文の形と論証(まとめ)
ここまで述べてきた小論文の形と論証の形とは、わかりやすく言えば以下の図のようになります。小論文の形とはいわば全体像であり、論証の形はその中に含まれるものになるのです。
■論証に適した文章とは?
そもそも論文とは、このことは正しいと論理的に証明した文章のことです。これは、好き勝手何でも言える主張とは異なります。論文とは、自らの主張に証拠を付け足していき、論証することなのです。
この論証という行為においては、相応しくない表現や手法が存在するため、ここではそうした避けるべきことを述べていきます。
▶個人の経験ではなく一般的な具体例
論証、つまり「これは正しい」ということを分かりやすく、伝わりやすくするには、具体例を用いることは良くあります。しかしその具体例が個人の経験に基づいたものにすぎない場合は、原則として避けるべきとされています。なぜなら、「1週間豆腐だけを食べ続けたら劇的に痩せ、その後リバウンドもしなかった」という経験をした場合、それが誰にでも当てはまるとは限らず、その方法が「正しい」とは言えないからです。
同じ方法を30人が試し28人が同様の結果を得たなら、ある程度の説得力を帯びます。500人が試して450人が同様の結果を得たなら、さらに説得力は増します。個人の経験を具体例にするのではなくより多くの人の経験、つまり一般化された他者の経験であれば、論証にふさわしい証拠になり得ます。
▶経験を超えた概念を用いる
主張の証拠になるのは個人の経験ではなく、一般化された他者の経験であることを先ほど述べました。それ以上に強固な証拠になるのは、経験を超えた概念です。概念とは、「●●とはこういうこと」「▲▲とはこういうもの」という、変わらぬ定義と捉えると良いでしょう。
たとえば、「勉強はするべきだ」という主張を論証する場合、「お父さんがやっといたほうが良かったから」というのは個人の経験であり、「世間の大人のほとんどがやっといたほうが良かったから」というのは一般化された他者の経験です。そして概念を用いて論証すると、「視野を拡大させ選択肢を増やすことに繋げるものだから」ということになるのです。
▶論証では避けるべき表現
論証とは、主張に様々な証拠を付け足したうえで、最終的に「こう結論付けられる」というものです。よって結論部分では、強く、かつ客観的な表現が相応しいのです。よって、結論部分では「思う」や「考える」という表現は避けるべきです。なぜならそれらの表現は、あくまで個人的見解や感情を述べるときに用いられる言葉だからです。これは英語においても同じであり、結論部分での"I think…"という表現は厳しく指導されます。
しかし、論文とはかなりの文章量になります。ですので「思う」「考える」という表現が一切認められないというわけではありません。文末表現のところでも述べた論文における1つ1つの文末表現は、必ずしも強調したものである必要はないということと同じです。あくまで結論部分では避けるべき表現ですが、それ以外のところでは用いても良いシーンはあるのです。
■大学が求める小論文の読みやすさとは何か
小論文の読みやすさとは、簡単な言葉を使うことではなく、論理の流れに沿って読み進められる文章を指します。簡単に言えば、先ほどは小論文の全体の形を説明しました。ここでは全体を分解して、段落や文章など1つ1つのパーツのことを説明していくことになります。
▶一段落一主題 と 一文一義
まず知っておくべきは、「一段落一主題」です。これは、1つの段落の中には1つの主張(1つのポイント)だけを書くというもので、読みやすい文章構成の基本原則となります。これを守るだけで小論文は、圧倒的に読みやすく、論理的にも整ったものになります。さらに「一文一義」というものがあります。これは、1つの文章には1つの主張(1つのポイント)だけを書くというものです。
つまり段落においても文章においても、たくさんの主張をあれこれ詰め込むのではなく、1つに絞り込むと読みやすくなるわけです。
▶1文あたりの適切な文字数
小論文の1文あたりの文字数は何文字くらいが適切か。「短くかけ」という指導をよく耳にしますが、短ければよいというわけではありません。たしかに短ければ主述の不一致は防げますが、内容の濃いものを書く時にその短さは妨げになります。
一般的に、小論文のような論理的な文章では、40字から80字程度に収めるのが適切とされています。40〜60字は短く簡潔で誤解の余地がなく、論理が明確になります。60〜80字は標準的な範囲であり、やや複雑な主張や、理由と結論をまとめるのに適しています。大阪大学人間科学研究科基礎心理学分野の助教授である松下戦具氏の発表では、様々な論文を調べたところ、1文72字が中央値であり、115字以上は長文の部類になるようです。
最初はこうした適切な文字数を意識して文章を書く練習をすると良いのですが、応用として、特に強調したい部分はあえて短くするという手法もあります。「コラ!」と叱るシーンでは、短く強く言うように、短くして強調するという手法は、小論文では主張を強めるうえで効果的です。
▶文末表現について
小論文において文章の文末は「強く書け」という指導を耳にします。しかしながら、すべての文章の文末を強く書かなければならないと、誤解している者は大学生でも多くいます。
たとえば論理的文章で強調する機能を持つ文末表現に、「~なのである」というものがあります。すべての文末表現をこれにすれば確かに強い文章が出来上がりますが、それでは一体どこが大切なのかがわからなくなります。弱い部分があるから強い部分が目立つのであり、「かもしれない」「ではないか」といった推測や提起として機能する弱い表現があってこそ、強調したい部分が明確になり、伝わりやすい文章になるのです。
■大学別の傾向と小論文の上達法
総合型選抜や学校推薦型選抜といった推薦入試では、広く小論文の試験が課せられます。いったいどんな問題が出るかは当日まで分からず、多くの受験生が書けるかどうかに対する心配が募ることでしょう。もちろん、過去問がある場合なら、ある程度の傾向、そして書くべき文字数が把握できます。それでも、課題が何か分からない状態は変わらず、もしあまり精通していないものをテーマに書くことになった際、果たしてかけるのか、といったことは多くの人が不安を覚えることでしょう。
ただ、ここで理解しておきたいことは小論文の練習とは何なのかということです。小論文の練習を、文章力の向上や知識の習得、さらには社会問題に対する理解を深めることとして取れ得ているなら、それは小論文の練習で身につけるべきことに対する理解が半分ほどの状態でとどまっています。
小論文の練習で本当に身につけるべきことは、深い思考力なのです。そもそも推薦入試で求められる人材とは、答えがある問いに答えられる人材ではありません。思考力・応用力・想像力など様々な力を駆使し自ら答えを導き出す、総合型選抜をはじめとした推薦入試で求められているのは、そうした力をもう人材なのです。これは小論文においても同じであり、AやBやCといった3つの課題に関する知識や理解が備わっていれば、それらを駆使して新たな課題であるDに関する主張を持ち、それが正しく機能するものだと論理的に証明していけるのです。つまり小論文とは、知っているか否かが本質なのではなく、知らない問題や道の課題に対しても、何らかの策を導き出せる思考力をもって向き合っていくものなのです。
■二重まるの小論文に対する考え方
最後に、当塾の小論文に対する考え方を述べたいと思います。前述通り、小論文とはその練習を通して社会課題に関する知識や理解が得られ、さらには思考力が磨かれます。
総合型選抜や学校推薦型選抜においては、順序的には志望理由書などの提出から始まり、小論文の試験が行われるのはその後になります。ですので、志望理由書を先に仕上げ、そうした提出書類が完成したの後にようやく、小論文対策を始めるというやり方が一般的かもしれません。しかし当塾においては、最初から小論文の学習に取り組み、その過程で志望理由書や自己PR、さらには課題レポートの作成を取り入れています。
これは珍しいケースかもしれませんが、大学の学部やそこで吸収できる学問に対する深い理解を促すには、やはり学問に触れなければいけません。志望理由書に書き記すること、大学でどんな学問に取り組もうとしているのか、そしてその学問から吸収したことを、将来どう社会に還元し、どんな社会課題を改善したいかということです。つまり、志望理由書を各段階で学問や社会課題に対する理解が必要で、それには小論文に取り組み練習することが最適であると考えているのです。
👉お役立ちリンク集
・二重まるの指導内容と時間割
・小論文徹底攻略
・英検対策徹底ガイド
・面接・プレゼン徹底攻略
・入試方式完全ガイド